志村 季世恵インタビュー


「自分らしく生きる」とは

志村季世恵は、セラピストとしてがん患者の苦しみとも向き合ってきた。末期の胃がんだったある女性は、秘書としての周囲の評価とは裏腹に、死を前に自分を素直に表現できなかった会社生活を悔いた。自分らしく生きる、すなわち自分の心や五感を解き放つことは、誰しもが望んでいるがしかし簡単ではない。そんな彼女が、志村さんのダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)を広める活動を心から応援していた。

「障害者」が障害者でなくなる暗闇が、人々を救う

DIDはドイツで生まれた、暗闇で8名の集団が90分間一緒に過ごすプログラムだ。そこに一人の視覚障害者が案内人として参加するが、漆黒の闇ではみな彼が頼り。つまり日常とは立場が逆転する。暗闇の広い空間には、落ち葉やバス停もあればバーもある。全て本物を用いて再現されている。「大丈夫ですよ、そっちは安全ですから。」案内人の声や周りの人々とのふれあいから、参加者はさまざまな気づきを得る。視覚以外の感覚がこんなにもあること、人間の暖かさ、絆の大切さ… 障害者もまた、参加者への気配りによって自信と成長を得る。皆が主役の優れたエンターテイメントなのだ。

雇用機会創造の新しいモデルを

DIDは、視覚障害者に雇用機会を創出する。従来型の福祉施設には、作業所もあり多額の就労支援も費やされているが、私たちにはその詳細が見えにくい。一方、DIDの仕組みは単純明解であり、かつ「障害」が仕事に生かされる。この仕事でより高い収入を得て経済的に自立することで、障害者も健常者と同じ自由を手に入れることができる、と志村さんは考えている。

また多くの健常者がDIDに参加し障害者の優れた能力を実感することで、新たなビジネスチャンスも期待できる。実際、今治のタオルメーカーは視覚障害者の皮膚感覚を活用してタオルを製造、肌触りのよい商品は伊勢丹のタオル売り場でシェアNo.1となった。健常者には判らない研ぎ澄まされた感覚が、これまでに無い商品を多数創り出す日がきっと来るだろう。

障害や欠陥はその人の「特性」

日本の風土では障害者を隠す傾向が顕著だ。他人の目を気にして外出を控えたり、可哀想だからと身の回りのことを家族がやってしまう。本人はもっと自由に活動してみたいが、身内が邪魔をし、地域が除け者にする。「障害や欠陥などは本来存在せず、それはその人の特性であるという感性が、世間でごく普通に受け入れられるようにしたい」と志村さん。DIDの活動は、日本の風土改革にも一役買うだろう。また、今や社会問題になっている「引きこもり」や「不登校」にも大きな効果を発揮している。DIDに1回参加しただけで、本人も周りの人も何かを掴んだ現場を、志村さんは幾度となく見てきた。セラピストとの度重なる対話を超える効果だという。きっとみな心が自由になり、暗闇で足を一歩踏み出す勇気を持ったのだろう。

暗闇の中では誰もが主人公

DIDでは参加者全員に気づきがあり、また視覚障害者の職場を確保できる。しかしDIDは障害者支援ではなく、本来的には実に意義深いエンターテイメントなのだ。娯楽の一つとして、出来るだけ多くの人に出来るだけ小さな頃から体験してもらい、「暗い中で何か新しい発見をしよう、と提案できたらいいな」と志村さんは笑う。少人数の参加者のために、漆黒の闇の中に本当の自然を再現する周到な準備が必要なため、会場や資金の手当てが大変だが、全国47都道府県に最低1箇所の常設会場を運営することが、彼女の将来の夢だ。

インタビューアー:本田 武弘


志村 季世恵

特定非営利活動法人ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン 理事


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